葉騒偲妹

古来から笹の葉ずれは
人の心を惑わせると聞く

されど
自分をざわつかせるのは




「晴れたな」
「はい」

さくさくと
足を踏み出すごとに

ざわ、と冷たい風が
葉を揺らす

高く遠く響く
笹の葉ずれの中
携えて歩くのは
竹林によく映える
紅い紅葉が一枝


「ちちうえ、どうかなさいましたか?」
「・・・いや」


ざわざわざわ
うなるように

遥か頭上で
呼ぶかのように

ざわざわざわ

心のうちを
掻き乱すように



「――・・・無駄だ」


小竹の葉に乱されるものなど
あるはずはない

お前との間には
もはや
生じさせることも

かなわないのだから


「騒ぐな・・・じきに追いつく」


呟いた言の葉は
波打つ葉ずれに
掻き消された


小竹の葉は
み山もさやに
さやげども

我妹思ふ

――別れ来ぬれば








あとがき
人は葉ずれの音に心惑わされるというけれど、半蔵には妻との間に生じる心はもうないから・・・とかどうでしょう。
「師匠の絵×二巻×妻を偲ぶ歌=かんざし話の半織」という数式のもと(数じゃない)紅い雪もついでに絡める強引さ。
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