お客様は神様です。(2)
バババババッ もういいかげん描写するも面倒くさい銃声が響きわたっている。 捕まったら、というか追いかけてくるのは銃弾なので当たったら即終わり、 の命懸鬼ごっこが開戦してから既に半刻を過ぎていたが、 決着はなおもついてなかった。 それもそのはず、参加しているのが忍と盗賊なのだ。 逃げる事に関してはプロと言える二人がそう簡単に捕まるはずもない訳で。 それは追い掛ける方も同じことで標的を簡単に逃す訳がない。 このままいくと夜までの延長戦も覚悟しなくてはならないかもしれない。 「なんかなぁーさすがに飽きてきたな・・・」 これだけ走り回っても小太郎は疲れた様子一つも見せずにのんきにぼやく。 「飽きる飽きないの問題じゃ・・・」 隣を走るのはなんだかもうあきらめている伊賀ずきんである。 「俺は追われるのはあまり好きじゃないしな。それにこれじゃ一緒に逃げてはいるが 『伊賀ずきんと遊んでる』気がしないじゃないか!」 「知りませんよ!うわわっ」 伊賀ずきんが小太郎のほうを向いた瞬間顔の横を弾が掠める。 「危なっかしいな」 だいぶ余裕がでてきたからこうやって会話もできるが、気を抜いた途端に的になる状況は変わらない。 やはりせっかく来たのだから邪魔されずに二人で話したいものだ。 当初の予定はあやとりだった訳だし。 「――撒くか」 「はい?」 ちょうど曲がり角に来たとき、小太郎はそう呟くいた。 何のことかよくわかっていない伊賀ずきんをおもむろに担ぎ上げる。 「うわぁっ!い、一体何をっ・・・」 そのまま仕事中の様に素早く走る。盗賊が本気で逃げれば、追っ手を撒くのなど容易いのだ。 「私は米俵じゃないんですよっ!!」 「大人しくしてろ、落とすぞ」 いきなりのことにじたばたする伊賀ずきんを抱えたまま、 よっ、と一度大きく屈み込み、反動をつけて大きく跳んだ。 そのままひらりと屋根の上に上る。体重を感じさせない身のこなしである。 「・・・すごいですね」 「ま、盗賊だからな。獲物持って逃げるのには慣れてる」 「え、獲物って・・・」 深い意味はないようだが、得意げに言う小太郎に伊賀ずきんの顔が引きっつったのは言うまでもない。 ピーヒョロロ・・・遠くで鳶が輪を描く。 うっすらと雲がかかった青空の下に、並ぶ人影が二つ。 「仕事しなくていいんですか?・・・どうぞ」 「お前、盗賊にそりゃないだろ・・・よし」 「それはそうですけど、三崎様とか、・・・はい」 「・・・・・・まぁ確かに最近は仕事してなかったから、おお?」 「あ、違いますよ。そこを小指で引っ掛けてから・・・」 「こうか?」 屋根の上、鬼ごっこを棄権した伊賀ずきんと風魔小太郎は仲良く並んで二人あやとりに興じている。 しばらく響いていた銃声もやんで、漂う静かな午後の空気。 「そうそう、そこをくぐらせて・・・って、あやとりなんかしてていいんですか?何か用事があったんじゃ・・・」 伊賀ずきんの指から小太郎の指へ、小太郎の指から伊賀ずきんの指へ、一本の麻紐が渡り合う。 「用事は・・・・・・っ友達だから遊びにきたって言っただろ!よしできたっ!」 本当は「伊賀ずきんの笑顔が見たかったから」とでも言いたい所だったが、一日に二度も、 しかも本人の目の前で一度恥ずかしいと言われた台詞は吐けない小太郎だった。 スカウトなのにプロポーズちっくな響きだったり、カリ○ストロ風味だったりする台詞を 平気に言えていた以前とはえらい差である。 「友達だから遊びに来たって・・・」 わざわざ伊賀まで、と伊賀ずきんは少し考える。 「・・・もしかして、小太郎さんってすごく暇人?」 「暇っ・・・」(ガーン) あれだけ苦労してやっと会えたというのに、そんな事まで言われる始末。 なんだか目的は果たせたはずなのに、すごく報われていない気がする小太郎である。 これでは顔に縦線の一本や二本軽く入るというものだ。 そんな、画面の隅で少しブルーになっている小太郎には気付かないまま、伊賀ずきんは言葉を続ける。 「でも・・・」 「何だっ!?」 今更何を言っても遅いと言わんばかりの小太郎。 それにも動じず、すっ、と小太郎を指差して、にこりと笑った。 「嬉しいです。友達が来てくれるって」 伊賀ずきんは真っ直ぐ小太郎を見つめている。風がやんだ。音が消えた。世界が止まる。 ―嬉しい、来てくれて、嬉しい― その言葉だけが漂っていた。 「(危害を加えない)お友達が遊びに来てくれるのって、よく考えたら初めてなんですよね」 あはは、と笑う伊賀ずきんのバックには今までに訪れたお客の姿が走馬灯のように甦ってくる。 「・・・・・・まぁ、これもギャグ漫画の主人公の宿命・・・」 つねられ、銃を向けられ、騙され、髪を引き抜かれ・・・思い返しながら心なしか遠い目になっている。 その横で小太郎は言われた言葉を反芻していた。 ―嬉しいと、自分が来たのが嬉しいと言った。初めて歓迎された。 受け入れられた。 「―っ報われたーーーっ」 里に、声が響いた。 「は、はいぃっ!?何が!?」 「知らん!でもなんかよくわからんが報われた気がするぞ伊賀ずきん! 見ろ、夕焼けが綺麗だ!そろそろ帰るとするか!」 「は、はぁ・・・」 すっかりご機嫌に小太郎は夕日に向かって走っていった。 突然現実に引き戻され、嵐のように去って行く小太郎に困惑しつつ手を振る伊賀ずきん。 結局零蔵だけでなく伊賀ずきんにも振り回されたのだが、本人は幸せそうなのでよしとしよう。 話の最後は「報われねぇー」で締められるのが慣例であるが、 今回は意に、というか作風に反して終わってしまった。 茜色の空を、カァカァと黒い斑点が滑っていった。
めでたしめでたし!でも続かせる
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