「では、皆にも自己紹介してもらおうか。最低限名前と趣味や部活、そして何か一言。じゃあ出席番号順にそっちから……」
言われてその場に立ち上がり、何事か喋る生徒たち。あいにく自分にとってはどれも似たような顔に見える。そのうえ同じ制服なので、名前以外に個性は見いだせない。といっても、それすら覚えきれないので区別がつくのは一瞬だが。
「部活はバスケで――」
それよりも気になるのは、どいつもこいつも自分より背が高いこと。何故だろう。もちろん、今までも散々自分の身長については気にしていたのだが。なんというか、ここでも自分が小さいのが納得いかない。さっき全校生徒が集まったとき、当たり前のように一年生の方へ誘導された恨みは忘れてなるものか。(そしてさらに言えばその中でも小さい方だった)
悔しい。ものすごく悔しい。正直、女子にすら見下ろされてしまう現状はどうにか打破しなくてはならない。やはり、ここは何か部活にでも入るべきなのか?
「じゃあ、次はレオ君。レオ君は親御さんの都合で日本に――」
と、秘かな闘志を燃やしていたら、もう自分の番になっていて少年は我にかえる。
「有名な神父さんで、今までは神学校で――」
担任が自分について語っている。同時に、クラス中の視線が刺さる。ああ、興味があるのは分かるけれど、そうやって遠巻きにじろじろと眺めるのはやめてもらえないだろうか。こそこそと何か言うのがうっとしい。質問があるなら直接聞け。答えてやるつもりもないけど。
「ハジメマシテ、レオ=ミヤマリョーノ、デス。」
立ちあがって言ったのはそれだけというのに、おおー、と感心したような声。ひときわ大きな拍手をいただく。いや、そんなに驚かれても。それなりの会話くらいできる。それだけじゃない。神父のせいで敬語はもちろん、コトワザや四字熟語も結構知っている。「一期一会」とか、「袖振りあうのも多生の縁」とか。……よく考えてみれば無駄な語彙がけっこうあるような。今後も使う機会はなさそうだ。
「一年間だけ、よろしくお願いしマス。」
そう、できるなら一年間でこことおさらばしたい。という気持ちを込めて強調してみたのだが、果たして伝わっているのかどうか。ああもう、だから小声で何かをささやくのは止めてほしい。あと身長には言及するな、殺意がわくから。
「?――…。」
そして何故今度は拍手が起きない。他に喋ることといっても、ここに来た経緯は今説明されたし、クラブも趣味も何もないのだから、何か言えと言われても困る。そんな期待に満ちた目でこちらを見られても、喋りませんから。
「アノ……」
もう次に順番を回していいだろう?ほら、次の人。頼むから、早く立ってください!
「つ、次、ドウゾ。―――ドビン、さん!」
沈黙と交わされるささやき声に、たまらず後ろの席の少女を促した。

でも、何故だろうか。

この中で、唯一覚えたその名前で

ものすごく、教室内の温度が下がった気がする――







「――わざわざ、紹介してくれてありがとう。」
にっこりと、何故かこちらを一点に見つめて言われる。いや、これはクラス全員に向けての自己紹介じゃなかったのか……なんて口を挟む勇気はもはやない。
「私の名前は望月ですわ。」
それは知ってる。その下の名前も知ってる。だからさっき呼んだのだ。
「普段は家で巫女をしてますの。特技は、占いや『おまじない』です。――色々と役にたちますわ。この後もよろしくね。」
よろしくって、何がだ。これからもじゃなくて、この後もって一体。それにおまじないって、確か「呪い」と書くんじゃなかったか。ジャパニーズホラー?ミコって、確かエクソシストみたなものだったような気がする。とりあえず怖い。なんというか、さっきとは比べ物にならないくらいすさまじい殺気を感じる。気になって仕方なかった周囲のちくちくとした視線も、背中から刺さる二本のナイフのような眼光に比べればたいしたことはない。そうやって冷汗を浮かべている間も、数人が何か喋っていたようだが、まったくもって頭に入らない。
「はい、班に分かれて掃除―」
気が付いたら周囲は次の行動に出ている。助かった、ようやく解放される……と思ったのに、割り振られた担当場所は少女と一緒。そして、そのあとの委員会や係決めも一緒。席はもちろん前後なので、どうしたって逃れようがない。すでに悪魔に魅入られたような気分である。名前を呼んだら契約成立?そんな馬鹿な。
たかが名前を呼んだだけで。
「そうですヨ……変ですヨ。」
いったん恐怖が通り過ぎると、今度は理不尽な仕打ちに対する怒りがわいてくる。
自分は悪くない。
だって、初対面で呼び捨てしたり、嫌なあだ名をつけたりしたわけでもない。
彼女が呼ばれるべき名前で、呼んだだけ。
タナカをタナカと呼び、スズキをスズキと呼ぶ。
それのどこが悪いと言うのだ。

せっかく初めて覚えた名前だというのに。

「Ms.Dobbin!」
くるりと向き直って、背中に刺さるナイフに対抗する。

「絶対変デス。全く変ではナイ!」


「……はい?」
イッチマッタナー/(^o^)\
ドビンちゃん的に最悪のパターンで名前が呼ばれてしまいました。