White christmas(2)
そして日付は変わり・・・。
「・・・・・・朝?」
ちゅんちゅんとどこからか聞こえる鳥の声に
目を覚ましたレオはそのままむくりと起き上がる。
慣れない寝巻と布団だったが、昨日色々あったせいだろう。
思いの外よく眠れた。
「クリスマスの朝らしさは全くもってありませんケド・・・
まぁよしとしまショウ」
そんなことを言いつつ、洋服に着替える。
どうやら昨日の雨は止んだらしい。
障子からうっすらと朝日がもれていた。
とたとたとた・・・
「レオさん見て下さい!!」
「ウワ!?」
ぱぁんっ、と勢いよく障子が開いて、伊賀ずきんが顔を出した。
「ミ、ミス・ゴールド?」
「雨は夜更け過ぎに雪へと変わったんです!」
「・・・山下○郎?じゃなくてつまり・・・ホワイトクリスマスですカ!?」
早く早く、と背中を押され一歩廊下に踏み出したレオの
目の前に広がっているのは、一面の銀世界。
そう、これは・・・
「白い・・・・・確かに白・・・・」
枯木残らず・・・松や梅や紅葉の木々には白い花が咲いたようだ。
純和風の日本庭園に厳かに積もったみ雪。
「・・・白い・・・デスガ」
そのわびさび漂う庭はホワイトクリスマスというより
水墨画に近い渋さを醸し出していた。
「い、いや、雪が降ったのだからこれは
確かにホワイトクリスマス、でいいハズ・・・?」
レオが隣で何かに逡巡しているとは
露も知らないすっかり上機嫌な伊賀ずきん。
「綺麗ですねー、頼んだ甲斐がありました」
「頼んダ?」
遡ってイヴの夜・・・
「仏教徒の私達がクリスマスというのもおかしな話ですね」
「まぁよかろう、七夕に盆に初詣、今に始まったことではない」
話しながら変わった三角錐の帽子を取っているのは、
これまた成り行きでパーティーに参加した服部親子。
宴も終わって、そろそろ就寝である。
とたとたとた・・・
「失礼します!」
ぱぁん、と勢いよく障子を開けて、顔を上気させた伊賀ずきんが入って来た。
「・・・廊下を走るな」
「零蔵様に、お願いがあるんです!」
「人の話を聞け!まったく、なんなんだいきなり・・・」
「レオさんに聞いたんですけど、
クリスマスに雪というのはとっても縁起がいいことなんだそうです」
言って伊賀ずきんはにこにこと嬉しそうに笑う。
「・・・だからなんだ」
「と、いうことで・・・ちょうど雨も降ってることだし・・・」
なおもにこにこと外を指差す。
「いつぞやの雨を雪に変える術を是非!」
「断る」
即答、である。
「ええっ、何故ですか!」
「当たり前だ。それに水が溜まった上に雪を降らせても意味がないだろう」
「そこはもちろん量は脚色三割増しで・・・」
「お前な・・・」
こんな感じで思いついた足で零蔵の所へ向かい、
乗り気じゃないのを拝み倒し、なんとか雪色聖夜を実現させたのだった。
・・・そして、今に至る訳だが。
「よーし、せっかく積もったので、何か作りましょう!」
「やれやれ・・・そうでスネ、クリスマスらしいのがいいデス」
「じゃあ、『サンタさん』にしましょう。何かとってきます」
レオは元気に走る伊賀ずきんの背中と目の前の光景を改めて眺める。
「・・・まぁ和製、ということデ」
昨夜言われた言葉を繰り返す。
煙突やケーキが無かろうと、朝ごはんが味噌汁と漬物だろうと、
十二月二十五日はクリスマスに違いない。
「この雪はミス・ゴールドへのプレゼントなのでしょうカ・・・おや?」
「レオさん、ちょっとこっちに来て運ぶの手伝って下さーい」
少なくとも、これだけは言える。
どんな祝い方でも、いい子にしてたらサンタクロースは絶対にやってくる。
タレ目もツリ目も関係なく。
こうして、自分の名前が呼ばれているのだから。
「今行きマス、ミス・ゴールド」
ざくざくと、日に照らされて輝く白雪を踏み締めて、声のする方へ歩を進める。
らしくないクリスマスの朝、らしくないサンタクロースにもらった
「友達」という名の贈り物が呼ぶ方へ。
「・・・あの、ミス・ゴールド。
・・・これは一体?」
「すいません、さすがに一人じゃ重くて運べなくて・・・」
「――ではナク!私が言いたいのはなんで米俵と木槌がいるノカ、
ということデス!」
・・・それからしばらくの間、伊賀の里では大黒様によく似た
雪の塊が和風の庭で浮きまくっていたとか。
厳かなWhite Christmas、最後の最後まで徹底的に和製(?)
を貫いて幕を閉じましたとさ。
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