※つづみの中で勝手に籠女姫(かごめひめ)って呼んでいる
 4巻登場:佐助が結果的に助けた菊千代の飼い主のお姫様視点です。

 正直オリキャラじゃないかってくらいの捏造っぷり(まあ一話しか出てないから…)
 そして(うちでは)珍しいことに恋愛って断言してます(片恋ですが)
 
 ・原作の終わり方でいいんだよ!
 ・佐助と言ったらぼたんしかお母さん認めませんよ!
 ・言いきるの恥ずかしいから禁止!
 ・ていうかいつ書いたんだこれ?

 ……って方はブラウザバックで。















空籠〜カラノカゴ・ソラノカゴ〜
大きい手足を使っても、この籠はもう壊せない。 私の空は、格子模様のそれなのだ。 あの忍のおかげで、それが分かってしまった。 「姫!」 「ご無事で!?」 「追っ手を放て!賊を逃がすな!」 今は昔の世は戦国―― ある晴れた日のこと、平和な城に突如二人の忍が押し入った。 幸い死傷者は出なかったものの、城郭のてっぺんの姫の部屋は荒らされ、 大事に置かれた小さな籠はもぬけのカラ。 侵入者たちは、その城主と姫君が家族同然に可愛がっていた 一匹のリスをさらって逃げ出したのだ。 「なんということを…!!」 城主に恨みを持つ何者かが差し向けた刺客に違いないだろう。 以前にも同じように狙われたことがあると言う。 目の前で大切にしていた家族――名を菊千代を言う――を 奪われたお姫様は、健気にもその細い腕で賊に抵抗し、 壊された窓から屋根へと降りて、後を追おうと試みる。 けれど時すでに遅し。 吹き付ける強風に髪は乱れ、余りの高さに目がくらんで動けない。 にっくき誘拐犯の影は、非情にも遠ざかっていく。 素足に冷たい屋根瓦の不安定な足場で、 可哀想な姫は呆然と空を見つめるしかなかったのであった。 「…――って、所かしらね」 物々しい語り口調はコレくらいにしおいて、そろそろいつもの調子に戻りたい。 そんなことを誰に対して言うでもなく呟いてみる。 「はぁぁぁ」 今度はとびきり重たいため息。それと同時にぎゅっと極太の格子をつかむのは、 先ほど出てきたお姫様の白くて華奢な手である。 そしてつかまれているこの格子、本当に冗談じゃないくらい頑丈だ。 時代錯誤のチェーンソーでもあれば壊せないこともないのではないかと思うが、 この姫は今のところ気分で身長が伸び縮みするような奇異な体質の人間はないので その手の便利グッズは期待できず、ましてや小刀一本の得物もない部屋の住人が 破壊衝動を募らせたところで道が開けるわけもない。 「菊千代…」 うなだれて格子の隙間からのぞく空は青い。あの日、別れてしまった時と同じに。 だが、風はなく、雲は冬の気配をはらんで、凍てついたように動かない。 身動きできないもどかしさと重なって、それがなんだかなおさら憎らしい。 「なんか冷えてきたし…もう嫌。でも窓を閉めるのも嫌だし…はぁぁぁぁ」 わざとらしいため息と、冒頭のわざとらしい誘拐の話だが別に好きでやっているわけではない。 実は、この姫様が語って見せた真相はもっとお間抜けで、  1.過保護な飼い主に外に出してもらえなくなったリスが  2.伝書鳩を介して友人の少年忍者に助けを求め  3.なんだかんだで逃がしてもらった 以上である。 「当事者としても未だに理解に苦しむけど…」 そして本当なら同じく解き放たれたお姫様は自ら城を抜け出し、 元気はつらつに下界を闊歩しているはずなのだが。 ――そんな仔細を説明してもよくわからない事情を、    現場に居合わせていない彼女の父親が分かるはずもない。 姫の思考は過去へ飛ぶ。 「姫!無事か!?」 事件の起きた日。 あわてて駆けつけた兵士に紛れ、飛び込んできたのは城主であり彼女の父親。 髪は乱れ、息は絶え絶えである。 「や、奴ら、刃物を振り回し格子を破るなど…姫相手になんと無粋な真似を!」 部屋の惨状(と言うほどでもないが)を目にし、城主はわなわなと震える。 「――いえ、お父様、彼らは」 「それにわしとしたことが…むざむざ菊千代をさらわれるとは…」 基本的にこの手のお偉いさんは人の話を聞かないものだ。 「違いますっ、父様」 「こしゃくな忍め…幻術など使いおってからに…!!」 「……父様、いい加減」 「ああ、でも…よかった、お前に怪我はないんだな?」 少しは人の話を聞け、と声を荒げようとした瞬間、 想像以上に悲痛な面持ちが目の前にあらわれて勢いがそがれる。 「乱暴はされなかったか?何かひどいことはされなかったか?痛いところはないか?  こんなことになって辛いだろうが、本当に、  お前だけでも無事でよかった。お前にまで何かあったら……」 かすかに肩が震えている。自分をつかんではなさない、血管の浮き出た腕が痛ましい。 どうしてだろう、息苦しくて見ていられない。 自分はこんなにピンピンして、彼らに感謝の念すら抱いているというのに、 なぜあなたがそんなに苦しめられるのですか。 悪いのは自分だ――と真相を説明しようとした姫は、言葉を失う。 どこかで見たことがある、これは。 ――これは、私か。 昔、菊千代がさらわれかけたと聞いた時の、私。 かつて、自分の大事な何かを失いかけた時の私。 自分自身が怪我するよりも、怖い思いをするよりも、 見えぬところで大事なものが傷つくのを考える方が 何倍も恐ろしくて痛くて仕方なかった。 もしも発見が遅れていたら、小さな命の行き着く その先を考えただけで背筋が凍り息は苦しくなる。 ――だから、守りたかった。 ――だから、閉じ込めた。 それは、父も同じことなのだ。 そこには愛情しかない。痛いほどよく分かる。 それは、執着と言う名の牢獄であるとアレは言った――でも。 「お前だけは、何があっても守ろう。すぐに格子を修復せよ。  凶器となりそうなものは一切排除し、警備を固めるのだ」 気づけばいつもの調子で淡々と指示を出している。 元来人の話を聞かない人間であったが、被害妄想も甚だしい。 それだけならいいが、このままでは、私は前よりももっと籠に押し込められてしまう。 取り返しのつかないほど奥深くまで。 「お、お待ちください父様!私は外に…」 「気持ちは分かるが、菊千代の捜索はまかせなさい。お前は何の心配もしなくていいんだ」 それは嫌だ。 もう私は籠女じゃない。 籠の中の鳥じゃない。 羽ばたけるのだ。 羽があるのだ。 カゴメ、籠女。 籠の中の鳥は、何時何時出やる――? そんなの決まっている―― 「そんなの嫌です!私だって、私こそ、探さなくてはならないのに…!  菊千代に会いに行かなくては!」 そう、私には手足がある。声が出せるのだ。 束縛に耐えかねて出て行った菊千代に、謝らなくてはならない。 一人は嫌だ、その自分のワガママのために自由を奪ったことを詫びに。 「立場をわきまえろ!!ろくに外を走ったこともないお前一人が、  外に出て、何ができる!?」 ――羽ばたきたがる籠の鳥、飼いならされた籠の鳥。 「とう…さま?」 「分からぬか、姫。お前を外に出せば、お前を守るために大勢の護衛がいるだろう?  移動するには従者がいるだろう?お前は行く先も分からなければ、  安全と危険の基準も分からない。  お前一人が移動するだけで、その倍以上の人間が動かねばならなくなるのだぞ。  ワガママを言っている場合じゃないだろう。」 「で、でも、私は」 「一刻も早く見つけなければならんのだ…分かってくれ」 「心配ありません、菊千代は利発な子。きっと奴らの手からも逃げ出してます。  第一彼らは悪人では…」 「そうは言ってもだ、仮に逃げおおせたとして、  森か何かに逃げ込んだとして、これから気候はどうなる――?」 壊された窓から、さあっ、と冷気を携えた風が吹き抜ける。 「野生でさえ生死をかけた冬が来るのだぞ。  今まで手厚く保護されていたのに、こんな時期にいきなりなんの  蓄えもなく放り出されればどうなるか   …なんにせよ急がねばならんのだ」 正直そこまで考えていなかった。 獣の牙を抜いたのは。 鳥の羽をもいだのは。 無責任に放せばそれこそ、最悪の結末が待っているのではないか。 生きる力もないのに無鉄砲に飛び出せば、その先は―― 「・・・・・・」 「な?菊千代を思うなら大人しくしていてくれ。」 いや、違う。 言い聞かせる。 菊千代は、きっと大丈夫。 不可解極まりないがあの二人、 いや一人と一匹は意思疎通可能と言う時点で決定的におかしいのに、 それが文通などという輪をかけて非常識な手段まかり通る間柄だ。 あの忍がみすみすそんな単純な理由で 助けた相手が死ぬような事態を見過ごすはずがない。 なんだかよくわからない性格だったし 頼りにならなさそうだし当てになるか分からないが きっと多分恐らくできるならそう思っていたいなるべく 可能な限り…やっぱり少々不安になってきた。 「とにかく、われわれにはそれぞれ役割がある。お前のためでもあるんだよ、姫。  他の者たちは外ですべきことがある。  やむ負えず外で這いつくばりながら生きている奴らの方が  世には多いことを忘れるな。なのにお前が気まぐれで外に出れば、  それだけで多くの者のすべきことを妨げるのだ。  落ち着いて考えろ、自分の立場を、役割を。」 自分の居場所を。 そう言って、父はきびすを返して出て行てしまう。 ――待って、お父様。私は。 言いかけた言葉は喉の奥に引っかかってしまった。 がらん、と、途端に部屋が静まり返る。 花のある穏やかな部屋、整えられた調度品、今は壊れているが、 やがて元に戻るであろう窓の格子。 陽が落ちて空気が冷え込む。窓を閉めよう…ダメだ、せめて空だけは。 見えないと窒息してしまいそう。 だけど、ここは、十分すぎる広さの――カゴだ。 不自由であること以外の不自由は存在しない。 いささかの不安よりも、気づいたのは、この鳥。 無様にもがいている、この鳥。 飛び方も知らないのに、空に焦がれる哀れな鳥。 ばたばたと暴れて、籠を飛び出して、貴様に空は飛べるのか? 空に憧れるものに、皆等しく風切羽はついているのだろうか? 答えは、否――だ。 それは私が、今まで籠の鳥だったからこそ、抗えない真実だった。
籠女姫さん実は初めて見たときからからずっと好きでした(告白!)
強気だけど寂しがりのお姫様って感じですかねぇ。
佐助とのロマンスを…当時結構期待したのに…最後も出なかった…(涙)
あと伊賀ずきん界の父って基本話聞かなさ過ぎですよね(ていうか鍵子父)
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