グッド・ラック
―・・・ 小さく呟くと同時に 絡ませた二本の指は 十字架 相手を激励する仕草。 でも、遠ざかっていく 少女の背中に向けたところで 意味はなかった。 万が一見えたとしても 日本人に意味なんてわかるはずがない。 最初から伝わるなんて思ってない。 ただ 今の自分には こうすることしか できないだけ。 初めて友達の方から 自分のもとを訪れてくれたと 思ったのもつかの間 開口一番 『友達だから』お別れにきました と言って すぐに帰った。 他にも挨拶しないといけないらしい。 平たく言えば『自分探しの旅』 こう言うと ありがちなことに聞こえるが 少女の場合は そんなに単純なことじゃない だから何も 言わなかった。 言えなかった。 生きる意味や目標 自分の存在意義 居場所 それを失うのがどんなに心細いことか、 想像するのは そんなに難しくない。 ―だから、応援しなくてはいけナイ。 ―友達だというなら、なおのコト。 そう思った。 けれど・・・ 心の中からは もうひとつ別の声がしていて。 ―じゃあどうして、あんなこと言ったんでスカ? 恨むような 拗ねたような 自分の声。 ―いつもいつも持ち上げておいて 突き落として あなたは軽く言ったけれど 本当に、本当に 欲しかった 待っていた やっと得たと思ったノニ・・・ ―身勝手だと、重々承知してイル けれど どうしても思ってしまう 結局 いなくなるのなら こんな思いをするくらいなら 『友達』なんて 言わないままで いて欲しカッタ―― 自分と同じように 少女を見送りに集まった人達を見て、 やはり、と納得する。 なんだかんだいって、 これだけ人が集まる。 自分には唯一の友達。 でも 相手からしたら 数多い知り合いの中の一人に過ぎナイ― そんなことを思っている間にも 着実に時は進んで、 去ろうとする少女に、各々が軽く別れを述べていた。 けれど自分は 何も言うことができなかった。 ――勝手に去ってくれればよかったノニ ―あのまま恨んでいた方が楽だったノニ ふつふつと 沸き上がり出す負の感情は、 あまりに熱く、御し難い。 口を開けば、 今までのように ぶつけてしまいそうだった。 違う・・・。 ―何のためにきたンダ 別の声が、叱咤する。 わかっている。 本当に言うべきなのは・・・ 「――――・・・!」 ―・・・ 沸き上がる 身勝手な感情にふたするように ただひたすら繰り返す。 結局何も言えずじまいで、 歩き出してしまった少女には もう 伝わるはずがないけれど。 こうしていないと 遠ざかる背中をまた 憎んでしまいそうだった。 もう、十分だ。 これ以上 憎みたくなかった。 恨みたくなかった。 一度くらい 嘘でもいいから 友達らしく 振る舞いたかった。 絡ませた指に力が込もる。 ―Good luck. ―主よ、どうか ―旅立つ、友へ ―幸運ヲ・・・ 仰いだ空が水面に落ちる。 揺れるにまかせて、ただ見上げた。











あとがき
差別された苦しみも受け入れられた嬉しさもたぶん何一つ伝えられず。
うちのレオは最後までヘタレです。
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