背くらべ
「今は昔の世は戦国、今日の戦は明日の我が身、油断大敵火がぼーぼー・・・ そんな時代の忍里にこれはありなのかと思うわ」 甲賀二人がお使いに訪れた伊賀の里上空を、薫風に乗ったこいのぼりが泳いでいた。 そんな本日五月五日は、端午の節句である。 「細かいことは気にするな、今に始まったことじゃないだろう」 とても目立つ吹き流しは、いかにも敵を呼びそうな気がして仕方がないが、気にしないことにする。 「やれやれ、さっさと済ませて帰るわよ・・・ん?」 天高く、こいのぼり泳ぐ春とくれば、聞こえる歌は決まっている。 ♪柱の傷は一昨年の・・・ ガッ 「ちっとも伸びてないな」 「ええーっ・・・やはりサ○エさんタイム適用の弊害・・・」 ちまきを食べながらクナイで柱に傷を入れ、伊賀ずきんの背丈を測るのは零蔵である。 「・・・『五月五日の、」「背くらべ』か伊賀ずきん」 「あ、ぼたんさんに佐助さん。そうなんですよー。 でも残念ながらこうして測ってもらっても相変わらず小さいままでして・・・ にぁ゛ーっ!?」 ギリギリギリギリ・・・と痛そうな効果音で頬をつねられた伊賀ずきんは咄嗟に零蔵の後ろに隠れる。 「い、いきなり何するんですかーっ」 「・・・その行為、自分の小ささをアピールする計算と見た。」 「・・・見ないで下さい。」 「そうやって同じ画面に入りきれない身長差を見せつけておいて何を言うか・・・」 「それは零蔵様が時代に似合わず大きいからです!それに背は高い方が有利だし、 色々と便利じゃないですか。ぼたんさんみたい・・・」 ぷちんっ ガッ 「あら、なぁに?比較対象をくのいちにすることでさらなる効果を狙ってるワケ? 本当ねぇ、女の私とのこの差は何なのかしらねぇ」 「は、刃物を人に渡す時は・・・」 「・・・ぼたん、落ち着け」 「仲がいいのは良いがさっさと用件を済ませなくていいのか?」 「・・・そうね」 思ったよりあっさりと伊賀ずきんを解放して、当初の目的を果たしに行くぼたん。 その後ろから佐助も続いた。 「はーびっくりした・・・」 「あの二人は双子か?」 「?いえ、たぶん違うかと」 「そうか」 「何故ですか」 「いや・・・」 柱に刺さったままのクナイは五月の太陽を受けて光っていた。 お使い終了、早々に甲賀の里へ帰ってきた二人は、 昔自分たちが背を測っていた柱を久しぶりに見ていた。 「・・・」 「どうした、さっきから黙り込んで」 「・・・何でもない」 「そんなに伊賀ずきんが小さいのが気に入らないか?」 「・・・別に。せっかく『ちいさい』んだからそのままでいいじゃない? 伊賀ずきんといいドビンといい、いつかの南蛮忍者といい・・・ 小さくてかわいいと有利なこともあるし。 佐助もちっちゃかわいいほうがいいでしょ」 「・・・ぼたん、お前」 「別に、私には身長なんて関係ない。背が小さかろうが大きかろうが私は私に変わりないんだから」 「・・・」 「何よ」 「・・・小さいものは確かにかわいい。 しかし、その小ささ故に大きいものがかばって守ってやらねばならぬ時がある」 柱に刻まれた昔の傷を眺めながら佐助は呟く。 「・・・?」 「しかし周知のとおり、俺はそんなに強くないから、一方的に守ってやることはできない。 俺の名は支えて『助ける』の意であって、敵から『守る』でも『救う』でもない」 「?・・・・・・だから」 何、と言いかけたぼたんを制して、佐助は続ける。 「だから、これは俺の勝手な見解なんだが・・・・・・ 背中を預けるのが同じ163pなのはすごく助かる、と言う話だ」 ガッ 言って佐助はぼたんの背の高さにクナイで傷をつける。 昔からいつも一緒に修業してきたおかげで、意気はぴったり。 それが関係するかは知らないが、成長の仕方もまた然りで、 二人はまるで双生児のように見られてきた。 気の強い片方をもう片方が押さえ、消極的な片方をもう片方が引っ張り、 持ちつ持たれつやってきた。 「!」 「そのおかげで俺も名に沿って『ただ助ける男』でいられる」 「・・・・・・。そうね。 昔から佐助は内気で弱気で根暗で、まったくもってヒーローって柄じゃないもの」 「そういうぼたんは昔から一度暴走すると他人には手がつけられないがな」 何よそれ、と言って佐助の頭を叩くのは、既にいつも通り勝ち気なぼたんだった。 甲賀の里、古い傷が刻まれていた大黒柱。 その一番上に一組、新たな傷跡が増えていたのを知る者はいない。 「ところで零蔵様、『背くらべ』の歌の作者は、明治生まれだそうです」 「・・・言うな。ライターが許されるんだから。」
あとがき
え、佐助って二枚目キャラでしたよね?
容姿端麗でしたよね?…うん、大丈夫大丈夫。
そして甲賀組が今秘かに熱い…!幼い頃とか書きたい…!!